ノゴマの思い出は”赤い喉”

2021.06.02

33年前の6月。北海道へ転居して3ヶ月経った初夏のこと。私は釧路から根室へ向けて車を走らせていた。初めて迎える北海道の初夏に心躍らせながらハンドルを操る。関東とは全く違う車窓の風景は新鮮そのもので、発見の連続だった。

とある小さな市街地を抜けて視界が開けた時、私は道路沿いの草地に何か赤いものがあることに気づいた。スピードを出さずのろのろ走っていたせいか、それがノゴマの喉であることにすぐ気づいた。少し通り過ぎて車を停め、窓をそっと開けて見ていると、口を大きく開けて首をあちらへ向けこちらへ向け、さえずっている。

「キョロキリキョロキリ、キーキョロピンピン、チリリ、チゥイー。」
明るく、元気で、快活な歌声だ。心が浮き立つようなさえずりである。

一声発するたびに鮮やかな朱色の喉が丸く膨らみ、まるで赤い宝石のようだ。鳴いているご本人(?)は、それを知っていて誇示しているのだろうか。図鑑などで得た知識として持っていたノゴマの喉の朱色は、想像をはるかに超える”鮮烈な赤”であることを、驚きとともに知った。「日の丸」という別名もうなずけるというものだ。

シマアオジやツメナガセキレイとともに北海道の”草原のスター”御三家の座を占めるノゴマとの、これが初めての出会いであった。そして、その夏には数えきれないほどノゴマを目にする機会があり、貴重な存在かと思っていたスターはじつは思いのほか身近な普通の存在であることを知ったのである。

あれから30年余。その後、シマアオジは急激に減って今や絶滅寸前。ツメナガセキレイも近年は不安定な生息状況に追い込まれている。昔と変わらず今も元気な歌声をあちこちで聞かせてくれているのはノゴマだけになってしまったようである。

ノゴマは、北海道の草原を象徴する存在として、いつまでもその鮮烈な赤を輝かせ続けていて欲しいものだ。

 

 

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