タヒバリ ━ 秋の出会い
2021.10.04
道東の10月。何と言ってもガン類の存在感を楽しむ季節だが、札幌在住の私にとっては、もうひとつ、タヒバリとの再会もうれしい季節である。
タヒバリはビンズイと共にセキレイ科タヒバリ類(Pipit)の代表的な鳥だ。本州などでは冬鳥だが北海道では旅鳥で、各種図鑑には北海道でも珍しくないという趣旨の解説が見られる。しかし、札幌周辺で鳥を見ている限り、滅多に出会うことはない。いや、私は30年来一度も道央ではお目にかかったことがない鳥なのである。
私は、北海道に移住して数年でタヒバリを見かけないことに気付き、北海道の地域版の図鑑類もいろいろ調べたが、「珍しい鳥ではないが、あまり目立たない」などとは書かれていても、いないとはどこにも書かれていない。どういうことなのだろうか。
疑問のままそれからさらに10年ほど過ごしたが、やがてその謎が少しずつ氷解する時が来た。根室半島や野付半島では10月から11月頃にタヒバリの大群が渡来していることを業務を通して知ることができたのだ。さらに、10月にハクガンやシジュウカラガンの取材で十勝を訪れた際、高い確率でタヒバリにも遭遇する体験を経て、私は一つの仮説へたどり着いた。それは、タヒバリは秋に北海道の東半分の地域に多数が渡来し、そのまま南下するというもの。要するに、北海道の西半分の地域を通らずに渡りを行っているという考え方だ。実体験でも、秋に札幌から道東へ向かう際、日高山脈を越えるととたんにタヒバリの姿が目に付くようになることを知った。今では、北海道のタヒバリ渡来地は東半分に限られることを確信している。
北海道とひと口に言っても、鳥たちの分布状況は一様ではない。西と東では分布の異なる種がいる。タヒバリはその典型的な例だと考えられるのである。
余談ながら、十勝にハクガンやシジュウカラガンが多数渡来するようになったのはここ10数年ほどのことだ。私は、それ以前には貴重なガンを求めて秋に十勝へ行くことはなかった。ハクガン、シジュウカラガンが十勝に来てくれるようになったことで、秋の十勝取材が定例化し、そのお陰で私はタヒバリの分布状況も知ることができたのだ。ガンたちに感謝感謝、である。