コクガンとの出会い
2022.01.07
20年数年前の冬のこと。浜中町・霧多布湿原の東側に位置する暮帰別(ぼきべつ)海岸で、私は砂浜にいる数羽のコクガンに遭遇した。
コクガンと言えば、東北地方などにも少数が越冬する場所があるが、何と言っても道南の函館湾が安定的な越冬地として有名であり、北海道らしい冬の鳥と言ってよい。ただ、道東にはいないはずだと思っていたから、この時はかなり驚いた。50mほども離れていたが、まずは証拠写真を撮ろうと思い、車の窓を開けて800mmレンズの先端だけを出して車内から撮影し、少し近づいてまた撮り、徐々に距離を詰めて行った。鳥を驚かさずに近づく常套手段だ。結局、20mほど近づいた時に飛んでしまい、作品的に満足できるような写真にはならなかったが、砂浜にいるコクガンという、ある意味意外なシーンを撮れたことは収穫だった。
暮帰別の海岸にいた個体はおそらく家族群だろうと思われたが、それにしても、なぜコクガンが道東にいるのだろう…。
腑に落ちないまま数年が過ぎた頃、北海道新聞に「コクガン、野付半島で大量越冬」という大きな記事が掲載された。函館湾の越冬コクガンはせいぜい数百羽だが、野付半島(というより野付湾)で越冬する個体は少なくとも千羽単位に上るらしいことが報じられたのだ。
野付湾は函館湾をはるかに超える大規模なコクガン越冬地になっていること、冬の間に風蓮湖周辺なども含め最大5000羽もが道東の海岸一帯を移動していることなどが、その後次々に明らかになった。野付湾は人が近づきにくいためこれまでその存在が明らかにならなかったらしい。道東の大規模なコクガン越冬地の存在は北海道の野鳥界にとって21世紀の大発見となったのだ。
なるほど、私がふらっと立ち寄った浜中町の海岸でコクガンに出会えても不思議ではないわけだ。私自身にとってもエポックメイキングであり、コクガンという鳥への見方が変わった出来事であった。